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世界の自称独立国家④ タコスのためなら速度超過を許す国、スロージャマスタン人民共和国

  • 5月23日
  • 読了時間: 6分

建国:2021年12月1日 / 場所:アメリカ・カリフォルニア州インペリアル郡 / 元首:スルタン・ランディ・ウィリアムズ

世界に196の国がある。国連に加盟しているのはそのうち193か国だ。

サンディエゴのラジオDJ、ランディ「R-Dub」ウィリアムズは、その193か国すべてを自分の足で旅した男だ。北朝鮮にも行った。南極にも行った。どんな辺境にも飛んでいった。そして世界の隅々まで見た末に、彼が出した結論はこうだ。

「じゃあ、自分で国を作ろう」

こうして2021年12月、カリフォルニア州の砂漠に11エーカー(約4.5ヘクタール)の土地が購入され、スロージャマスタン人民共和国(Republic of Slowjamastan)が誕生した。憲法が制定され、通貨が発行され、国旗が掲揚された。そして国の法律として真っ先に定められたのが——クロックス(Crocs)の着用禁止だった。

193か国を旅した男が、194番目を作った

ランディ・ウィリアムズは1976年生まれ。サンディエゴのラジオ局でプログラミングディレクターを務め、「Sunday Night Slow Jams」という週末深夜の音楽番組を世界200都市以上に配信するDJだ。スロージャム——ボーイズIIメン、アッシャー、ルーサー・ヴァンドロス、アリシア・キーズ——そういった系譜の、甘くてグルーヴィーなR&Bを専門とする。

彼は長年、世界中を旅しながら全国連加盟国の踏破を目指していた。そのカウントが193に達し、「次は何をしよう」と考えていた矢先に、コロナ禍が世界を直撃した。国境が閉まり、飛行機が止まり、旅が不可能になった。

「他の国に行けないなら、自分の国を作ればいい」——それがウィリアムズの結論だった。

彼は19,500ドルでカリフォルニア州の荒涼とした砂漠の一区画を購入し、それを主権国家(少なくとも精神的には)へと変えた。場所はハイウェイ78号線沿い、ソルトン湖の南西数マイルという、文字通り何もない砂漠だ。


憲法の第一条は「クロックス禁止」

スロージャマスタンの法律体系は、世界のどの国家とも一線を画している。

禁止事項には、クロックス、マンブル・ラップ(聞き取れないほどぼそぼそしたラップ)、車のダッシュボードに足を乗せること、そしてストリングチーズを「かじること」が含まれる。

ストリングチーズは剥がして食べるものであり、かじる行為は「文明への背信」とみなされる。もし違反者がいれば、国境警備隊のマーク・コロナが問答無用でクロックスを脱がせ、その汚れたクロックスで頭を叩く(もちろん冗談として)。

他にも——


  • 「your」と「you're」を間違えると国外追放(再入国には筆記試験に合格する必要あり)

  • 全員宛のメール返信(Reply All)は原則違反(罰則:30日間コミックサンスフォント強制使用)

  • 速度超過は原則禁止。ただしタコスを持ち帰り中の場合は例外(冷えたタコスは最悪だから)

  • 左車線は追い越し専用(違反者は両耳にパンを挟んだまま「私はバカなサンドイッチです」と書かれた名札を15日間着用)

  • マンブル・ラップの公開演奏禁止(罰則:本物のヒップホップアーティストのフルアルバムを強制試聴)


ウィリアムズはなぜクロックスをそこまで憎むのか。「最初はほんの一部の変な人だけが履いていた。でもジャスティン・ビーバーが履いてから主流になってしまった。地元や連邦政府機関に相談したが、誰も聞いてくれなかった。だから自分たちで止めるしかない」というのがスルタンの公式見解だ。


「平和的独裁国家」の統治システム


スロージャマスタンの政体は「共和国」を名乗りつつも、実態は独裁制だ。

「共和国の日もあるが、独裁の日もある。私が偉大なる指導者としてルールを作る。ただ、重要な問題については市民の意見も聞く」とウィリアムズは語る。

しかし心配は無用だ。スロージャマスタンのガバナンスは「鉄拳」ではなく「ゴム製の鶏とティアラ」で動いている。スルタンは絶対的な主権を持ちながら、意見箱を回して国民の声を集める——「国民投票の形をした茶番」と「本物の民主主義」の間を軽やかに行き来する、希有な指導者だ。


パスポートには、ヒップホップの名言が刻まれる

スロージャマスタンは独自のパスポートを発行しており、各ページにヒップホップアーティストの名言が印刷されている。

そしてこのパスポート、意外なことに実際に機能している。ウィリアムズは最近の旅でスロージャマスタンのパスポートを南アフリカ、ニュージーランド、バヌアツ、アメリカを含む16か国でスタンプしてもらっている。国際的な法的承認はないが、入国審査官が「面白いから」とスタンプを押してくれた、ということらしい。

通貨は「デュブル(duble)」。実際に紙幣が印刷されて発行されているが、国内のグッズ購入には米ドルが必要だ。そのあたりのゆるさも、この国らしい。


国民2万5000人、120カ国から

スロージャマスタンは現在、120カ国から2万5,000人以上の登録市民を持ち、バチカンやツバルといった正式に承認された国家の人口を上回っている。

市民になるにはウェブサイトから申請するだけ。大使職は月額10〜25ドルで就任でき、「LinkedInの肩書きに使える」と半ば冗談交じりに宣伝されている。国会議員のポストも購入可能だ。

また、スロージャマスタンは積極的に国際外交を展開している。2024年にはNATOサミット(ワシントンD.C.開催)に参加した最初のミクロネーションとなり、2023年にはキューバのハバナで各国大使が集う外交晩餐会に「乱入」した。スルタン本人が会場に現れ、結果的に着席を認められたというのだから恐れ入る。

さらに、2027年にはサンディエゴでミクロネーションの国際サミット「マイクロコン(MicroCon)2027」の主催国となることが決定している。世界40か国以上の自称国家代表が集まるこのイベントのホストとして、スロージャマスタンはさらに存在感を高めていく予定だ。


国章はアライグマ、国歌はスロージャム

国民(Slowjamastanis)を象徴する国家シンボルも独特だ。

国章に描かれているのはアライグマ——マスクをかぶり、斧を持ち、太陽に囲まれた威厳あるアライグマだ。この生き物はスロージャマスタンの風刺的でユーモラスな精神を体現しているとされ、「国家の動物を虐待・挑発・餌付けすること」は法律で禁止されている。

国歌はもちろんスロージャム。領土の入口では、スロージャムのナショナルアンセムがエンドレスでループ再生されているという。


政治から逃げた人たちの国

スロージャマスタンには、笑いの奥に真剣なメッセージが流れている。

「人々は政治的な問題で友人を失っている。スロージャマスタンは、そのすべてからの逃避場所を提供する」とウィリアムズは言う。領土内では政治的な議論が全面禁止だ。左でも右でも保守でもリベラルでもなく、ただクロックスを嫌い、タコスを愛し、ストリングチーズを丁寧に剥がす——それだけで市民になれる。

コロナ禍のロックダウンの中で、旅に出られなくなった男が19,500ドルで砂漠を買い、国を作った。その国に世界120か国から2万5,000人が集まった。

「国家」とは何のためにあるのか。その問いに対して、スロージャマスタンはこう答える——「楽しむためだ」と。

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