ミクロネーションとは? - 地図に載らない国
- 5月6日
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世界にはいくつの国があるだろうか。
外務省によれば、日本が正式に承認している国は196か国。しかしそれとは別に、地図に載ることのない「国」が世界中に存在している。国連にも加盟できず、どの国からも正式には認められていないのに、「ここは独立国家だ」と宣言し、国旗を掲げ、通貨を発行し、国民を募っている人たちがいる。
そういう自称独立国家をミクロネーション(Micronation)という。

ミクロネーションの定義
ミクロネーションとは、独立国家であると自称しているものの、国連や各国政府から正式に承認されていない実体のことをいう。「ミクロ国家」「自称国家」「モデル・カントリー」などとも呼ばれる。
国家が成立するには一般的に「領土・国民・主権」の三要素が必要とされている。ドイツの法学者ゲオルグ・イェリネックが整理したこの条件をクリアし、独立宣言さえ行えば、理論上は誰でも国を「つくる」ことができ、「建国すること」自体を禁じる法律はない。もちろん他国から認められるかは別の話だが。
ミクロネーションに共通する特徴として、次の点が挙げられる。
国連や各国政府から承認されていない
独自の通貨・国旗・パスポートなどを発行するが、国外では通用しない
実際の独立運動や民族自決運動とは異なる
世界にはおよそ86か国以上のミクロネーションが存在するとされており、アメリカ・イギリス・オーストラリアなど、英語圏に多い傾向がある。その成り立ちは政治的な抗議、芸術的なコンセプト、純粋なユーモアまで実にさまざまだ。
なぜ「国」をつくるのか
ミクロネーションが生まれる動機は、大きく三つに分けられる。
① 抗議・反骨精神から 行政や社会への不満をきっかけに建国するケースがある。オーストラリア・シドニー郊外のワイ公国(Principality of Wy)は、地元自治体の手違いで自宅前の道路舗装が却下されたことに激怒した芸術家ポール・デルプラットが、2004年に独立を宣言して生まれた国だ。面積はわずか0.0007㎢(プロ野球の内野ほどの広さ)、国民は家族5人のみ。小さいが、その意思は本物だ。
② アイデンティティ・表現として 「国家」というフォーマットを使って、自分たちの哲学や価値観を表現するケースもある。1987年にカナダで建国されたアエリカ帝国(Aerican Empire)は、モントリオール市内の一部に加え、なんと火星と冥王星も自国領土と主張する。1月2日を「先延ばしにする人の日」、2月27日を「しまった!の日」と定めるユニークな祝日制度からは、ユーモアそのものが国是であることが伝わってくる。
③ ビジネスとコミュニティとして 国家としての「設定」を活用して、グッズ販売・爵位授与・観光誘致などで収益を生むケースもある。最も有名なシーランド公国(Principality of Sealand)は、1967年にイギリス沖合の海上要塞で独立宣言した国で、男爵・伯爵・侯爵・ナイトといった爵位を販売。国旗・通貨・サッカー代表チームまで持つ本格派だ。もともとは海賊ラジオ放送局として始まったというのだから、その成り立ちも映画のようである。
世界のユニークなミクロネーション事例
シーランド公国(Principality of Sealand)
ミクロネーションの中で最も有名なのが、イギリス・サフォーク州沖合いに浮かぶシーランド公国だ。
1967年9月2日に建国されたこの国の領土は、第二次世界大戦中にイギリス軍が建設した海上要塞。もともとイギリス陸軍少佐のパディ・ロイ・ベーツが違法なラジオ放送(いわゆる「海賊放送」)を行うために占拠した場所で、海上放送法の管轄外に逃れるために独立宣言をしたのがはじまりだ。
国是は「E mare libertas(海からの自由)」。面積はわずか0.000207㎢、居住者はかつて最大27人というこの極小国家は、独自の通貨「シーランド・ドル」を持ち、男爵・伯爵・侯爵・ナイトといった貴族制度まで整えている。現在はロイの息子マイケル・ベーツが公(Prince)を務め、国家は存続している。サッカーのシーランド代表チームも存在するというから、気合の入り方が違う。
アエリカ帝国(Aerican Empire)
1987年にカナダのモントリオールで医学博士エリック・リスが建国した帝国。「原則として国土なし」を標榜しながらも、モントリオール市内の一部、そして火星と冥王星の一部も自国領土と主張するスケールの大きさが特徴だ。
国民は183人。独自の通貨「ソラリ」を持ち、ユニークな祝日が充実している。1月2日は「先延ばしにする人の日(Procrastinator's Day)」、2月27日は「しまった!の日(★Oops★ Day)」、3月19日は「それがどうした!の日(What the Heck is That Day)」。ゆるさと哲学が絶妙に同居した国家だ。
ワイ公国(Principality of Wy)
2004年にオーストラリア・シドニー郊外のモスマン市で建国されたワイ公国は、国民がわずか5人という超ミニマムな国家。建国者のポール・デルプラットが、地元自治体の手違いで自宅前の道路舗装が却下されたことに激怒し、独立を宣言した。
面積は約0.0007㎢——プロ野球の内野ダイヤモンドほどの広さに、家族5人が住む。芸術家であるポール公は自ら国旗・紋章・国歌「Wy is an Answer」を制作。なんとモスマン市長からは独立宣言を受理されている(オーストラリア全体は承認していないが)。
ミクロネーションの「国家機能」
本気度の高いミクロネーションは、驚くほど国家らしい機能を整えている。
通貨:シーランド公国の「シーランド・ドル」、アエリカ帝国の「ソラリ」など、独自通貨を発行している国は多い。もちろん外では使えない。
パスポート・市民権:国民証明書や市民権証書を発行し、購入・申請できる仕組みを持つ国も多い。爵位(男爵や伯爵など)を有料で授与するシステムも一般的だ。
国歌・国旗・国章:ほぼすべてのミクロネーションが独自の国旗と国歌を持つ。ワイ公国のポール公は芸術家として自ら国歌「Wy is an Answer」を作曲した。
憲法・法律:スロージャマスタン共和国(2021年建国・アメリカ)は「クロックス禁止」など20個ほどの法律を制定。明文化された法体系を持つ国も珍しくない。
メディア:国営ラジオやSNSで情報を発信し、コミュニティを維持している国も増えている。
ミクロネーションが面白い理由
ミクロネーションはユーモアだ。しかし、ただのジョークではない。
「国家」というフォーマットを借りることで、そこには通常の団体やコミュニティでは生まれない特別な熱量と求心力が宿る。「市民」になる、「爵位」をもらう、「入国」するという体験は、普通のサービスや組織への参加とはまったく異なる感覚をもたらす。
また、ミクロネーションの多くは、既存の社会や制度へのオルタナティブとして存在している。「こうじゃない生き方もある」「こんな価値観で集まってもいい」というメッセージを、国家という形式でユーモラスに体現しているのだ。

ミクロネーション学(Micronation Studies)という研究分野まで生まれているほど、その現象は文化的・社会的に注目されている。ミクロネーションについて研究している書籍もある。
地図に載らない国の話が、なぜかリアルに感じられるのは、そこに「もう少し自由に生きてもいいんじゃないか」という問いかけが静かに宿っているからかもしれない。
世界では今日も、どこかの誰かが「独立宣言」をしている。

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